悪い菌?良い菌?土に住む菌がもたらす病害と利益を解説

2025年09月19日

愛情込めて育てた野菜が病気になる、そんな悔しい経験はありませんか?解決の鍵は、目に見えない土の中の世界にあります。

土には悪さをする菌だけでなく、植物を強くする「良い菌」も沢山います。良い菌を味方につける「土の菌活」で、農薬に頼らない豊かな菜園作りを微生物資材のエキスパートが徹底解説します!

目次

30秒でわかるこの記事のポイント

  • 土1gには数億もの菌(微生物)が棲んでおり、その多様性が土の豊かさを決めます
  • うどんこ病菌など作物を枯らす「悪い土壌病原菌」は、感染経路を知り対策することができます。
  • 窒素固定菌やバチルス菌など、植物の成長を助ける「良い土の菌」もたくさんいます
  • 良い菌が優勢な土壌環境では、悪い菌の活動が自然と抑制されます
  • 堆肥や微生物資材を活用する「土の菌活」で、良い菌を増やし、病気に強い土を作ることができます

魅力いっぱい!土の中に広がるミクロの世界

ふかふかとした黒い土。その豊かな香りを胸いっぱいに吸い込んだことはありますか?あの生命力あふれる香りの正体こそ、無数の菌をはじめとする微生物たちが織りなす営みなのです。

私たちの目には見えませんが、一握りの土の中は、まさに生命のるつぼ。土の中のミクロの世界では、枯れ葉や虫の死骸を分解して栄養豊富な腐植に変える「分解者」、植物の根と共生して栄養の吸収を助ける「パートナー」、あるいは時に植物に病気をもたらす「作物の敵」として、多種多様な菌たちが生きているのです。

このミクロの生態系のバランスが取れている土こそ、作物がのびのびと育つ「生きた土」なのです。

土の中に菌はどのくらい棲んでいるの?

では、具体的にどれくらいの菌が土の中にいるのでしょうか。 驚くことに、健康な土壌の場合、わずか1g(ティースプーン1杯程度)の中に、1億から100億個もの微生物が存在すると言われています。

その種類も数千から数万種にのぼるとされ、地球上の生物多様性の宝庫ともいえる場所が、私たちの足元にある土の中なのです。この数の多さと種類の豊富さこそが、土の健康状態を示すバロメーターとなります。

土に住む菌は食中毒を引き起こす??

土は命を育む一方で、注意すべき菌も潜んでいます。その一つが、食中毒の原因となる菌です。畑で採れたての新鮮な野菜を味わうのは格別ですが、正しい知識を持つことが大切です。

食中毒菌の種類と特徴

土の中に広く存在し、食中毒の原因となりうる代表的な菌には、ウェルシュ菌やボツリヌス菌、セレウス菌などがあります。これらの菌は熱に強い「芽胞(がほう)」という殻を作る性質を持つものが多く、通常の加熱調理で簡単には除去できないことがあります。例えば、ウェルシュ菌の場合、「耐熱性芽胞は100℃で 1~6 時間の加熱に耐える」とされています。(出典:厚生労働省「細菌による食中毒」)

畑の農作物や土のついた食品は、取り扱いや保存方法に注意が必要です。

【食中毒対策】土に住む菌を洗い流そう

家庭菜園でできる最も簡単で効果的な対策は「洗浄」です。 収穫した野菜、特に根菜類や葉物野菜の根元についた土は、流水で丁寧に洗い流しましょう。タワシなども使い、表面の土や汚れを物理的に除去することが食中毒リスクを減らす基本です。土に触れた手や調理器具をしっかり洗うことも忘れないでください。

作物を病気にする、土に悪い菌の種類と危険性

ここからは、多くの農業生産者を悩ませる「悪い菌」、すなわち土壌病原菌について解説します。これらの菌は、土の中に潜み、作物の根や茎に感染して深刻な被害をもたらします。彼らの特徴を知ることが、対策の第一歩です。

うどん粉病菌

葉や茎の表面に、まるでうどん粉をまぶしたように白いカビが広がる病気です。見たことがある方も多いのではないでしょうか。この菌は生きた植物からしか栄養を奪えない「活物寄生菌」で、土の中に残った被害植物の残骸などで越冬し、翌年の発生源となります。光合成を妨げて生育を著しく悪化させ、最終的には株全体を枯らしてしまうこともあります。

根こぶ病菌

アブラナ科の野菜(キャベツ、ハクサイ、カブ、ブロッコリーなど)に特有の深刻な病害です。根に大小さまざまなこぶを形成し、水分や養分の吸収を妨げます。地上部は日中にしおれ、夕方には回復するという症状を繰り返しながら、次第に生育が悪くなり、最終的には枯れてしまいます。この菌は酸性の土壌を好み、一度発生すると土の中で10年以上も生存できる非常に厄介な相手です。

いもち病菌

主にイネに発生する、日本の稲作における最重要病害の一つです。葉や穂、節など様々な部位に感染し、特に穂に感染すると米が実らなくなり、収量に壊滅的な打撃を与えます。この菌もまた、土中の被害わらなどで越冬し、翌年の伝染源となります

もみ枯れ細菌

イネのもみに感染し、褐色の病斑を作って米の品質を著しく低下させる細菌性の病気です。苗の段階で感染することもあり、その場合は苗が枯れてしまいます。種子伝染のほか、土の中に残った稲わらなどでも生き残り、雨水の跳ね返りなどで伝染を広げます。

そうか病菌

ジャガイモの表面に、かさぶた状のザラザラとした病斑(そうか)を作る病気です。見た目が悪くなるため商品価値が大きく下がり、ひどい場合は亀裂が入ることもあります。この菌は、アルカリ性に傾いた乾燥気味の土壌を好むという特徴があります。

土の悪い菌の感染経路と対策方法

これら厄介な悪い菌は、一体どこからやってくるのでしょうか。感染経路と基本的な対策について見ていきましょう。

悪い菌の感染経路

土の中に棲む悪い菌は、目に見えないうちに様々なルートで畑に侵入し、蔓延します。伝染経路は一般的に以下の5つが考えられます。

伝染経路 伝染経路の詳細
土壌伝染 病原菌に汚染された土が、農具や長靴、車両に付着して運ばれる。
種子・種苗伝染 病原菌に感染した種子や苗を植え付けることで持ち込んでしまう。
水媒伝染 雨水の跳ね返りや、汚染された用水路からの水によって伝染する。
風媒伝染 風によって胞子が飛ばされ、広範囲に拡散する。
残渣伝染 病気にかかった植物の残骸を土にすき込むことで、菌が越冬し翌年の発生源となる。

【病害対策】土壌消毒のメリットとデメリット

一度、悪い土の菌が蔓延してしまった場合の対策として「土壌消毒」があります。これは、薬剤や熱の力で病原菌を死滅させる方法です。

  • メリット: 特定の病原菌を効果的に減らし、連作障害などをリセットする高い効果が期待できます。
  • デメリット: 病原菌だけでなく、後述する植物の生育に不可欠な「良い菌」まで殺してしまいます。これにより、一時的に菌がほとんどいない状態になり、かえって外部から侵入した病原菌が爆発的に増殖するリスクも生じます。また、農薬の使用は環境への負荷も懸念されます。

太陽の熱を利用する「太陽熱消毒」など、より環境負荷の低い方法もありますが、いずれにせよ土壌の微生物生態系を一度リセットする方法であることは理解しておく必要があります。

悪い菌ばかりじゃない!土に有益な菌の種類と働き

さて、ここまで土の菌の少し怖い側面を見てきましたが、ここからが本題です。実は、土の中の世界は、圧倒的に多くの「良い菌(有用微生物)」によって支えられています。彼らがいなければ、植物は元気に育つことができません。微生物の力を研究する専門家が、その可能性に魅了され、日々研究を重ねているのも、この素晴らしい働きがあるからです。

糸状菌の良い働き

糸状菌はいわゆる「カビ」の仲間ですが、土の中では重要な分解者として活躍します。植物が分解しにくい硬い繊維(セルロースやリグニン)を分解できる酵素を持っており、枯れ葉や木の枝を栄養豊富な腐植に変えていく、いわば「土の調理人」です。 また、「菌根菌」のように植物の根と共生し、根が届かない範囲のリン酸などの養分を植物に供給してくれる重要なパートナーもいます。

細菌の良い働き

細菌は土の中に最も多く存在する微生物で、その働きは驚くほど多岐にわたります。ここでは代表的な働き手たちを紹介しましょう。

窒素固定菌(根粒菌・アゾトバクター)

植物の三大栄養素の一つ「窒素」。空気中の約8割は窒素ガスですが、植物はそれを直接利用できません。この空気中の窒素を、植物が利用できる形(アンモニア態窒素など)に変える魔法のような働きをするのが「窒素固定菌」です。彼らは、まさに「天然の肥料工場」です。

乳酸菌

ヨーグルトなどでお馴染みの乳酸菌も、土の中で重要な役割を果たします。有機物を分解する過程で乳酸などの有機酸を生成します。この酸が、他の微生物が作り出したミネラルを植物が吸収しやすい形に変えたり、病原菌の活動を抑制する「静菌作用」を持っていたりします。

バチルス菌(枯草菌など)

納豆菌もこの仲間である「バチルス菌」は、研究開発の現場で特に注目されているスーパーヒーローです。その理由は、多種多様な「酵素」を出す能力にあります。タンパク質やデンプンなどを強力に分解し、土の団粒化を促進します。 さらに特筆すべきは、一部のバチルス菌が持つ病原菌に対する「拮抗作用」です。病原菌の増殖を抑える物質を産生したり、病原菌より先に根の周りに定着してバリアを張ることで、植物を病気から守ります。このため、微生物資材の有効成分として非常に優れた性質を持っています。

硫黄細菌(紅色・緑色硫黄細菌)

少し専門的になりますが、酸素が少ない水田などの環境では、硫化水素という有害物質が発生し、根を傷めることがあります。硫黄細菌は、この硫化水素を無害な物質に変える働きを持つ、いわば「土のデトックス担当」です。

放線菌の良い働き

放線菌は、細菌と糸状菌の中間的な性質を持つ微生物です。雨上がりの土の良い香りのもと「ゲオスミン」を作り出すことで知られています。 さらに、多くの「抗生物質」がこの放線菌から発見されたように、病原菌の増殖を抑える物質を産生する能力が高く、土の中の病害抑制に大きく貢献しています

良い菌が多ければ悪い菌は増えない!

ここまで、悪い菌と良い菌、それぞれの働きを見てきました。ここで最も重要なポイントをお伝えします。それは、「多様な良い菌が豊富に存在する土壌では、悪い菌は増殖しにくい」という事実です。

これを「静菌作用」や「拮抗作用」と呼びます。 土の中という限られた空間と栄養をめぐって、微生物たちは常に生存競争を繰り広げています。良い菌が数と種類で優勢を占めていると、彼らが栄養や住処を独占してしまうため、後から来た悪い菌は活動の場を失い、増えることができません。

つまり、病害対策の最も本質的なアプローチは、消毒で菌を皆殺しにすることではなく、いかにして良い菌が暮らしやすい環境を作り、彼らに「土のガードマン」として活躍してもらうか、ということなのです。

良い菌を増やす「土の菌活」とは?

では、どうすれば良い土の菌を増やせるのでしょうか。今日から始められる「土の菌活」をご紹介します。

堆肥をすき込んで土づくり

良い菌を増やすための基本中の基本は、彼らの「エサ」と「すみか」を土に供給することです。その最良の資材が、質の良い完熟堆肥です。堆肥は、多様な微生物のエサとなる有機物の塊であり、それ自体にも有用な土の菌が豊富に含まれています。

無耕起栽培で菌の多様性を維持

トラクターなどで深く耕すことは、土を柔らかくする一方で、土の中に張り巡らされた糸状菌のネットワーク(菌糸)を物理的に破壊し、微生物の生態系を乱してしまう側面もあります。そこで注目されているのが「不耕起栽培」です。耕すのを最小限にすることで、豊かな生態系を壊さず、その多様性を維持することができるのです。

おすすめ!微生物資材を活用

堆肥で土の基礎はできても特定の病気や生育不良など、解決しきれない悩みはありませんか?そんな時、状況を打破する強力な一手となるのが「微生物資材」です。

「微生物資材」とは、特定の課題を解決するために厳選された有用菌を高濃度で配合した土づくりのアイテム。いわば、土づくりの「専門家チーム」なのです。

堆肥だけでは難しい、戦略的な土壌改善を可能にします。

微生物資材には、目的に応じて主に2つのタイプがあります。

  • 特定の課題を解決する「スペシャリスト」タイプ
    病害抑制に特化したバチルス菌など、一つの強力な機能を持つ菌を主成分とし、「この病気を抑えたい」といった明確な悩みに応えます。
  • 土壌全体を改良する「チーム」タイプ(複合微生物資材)
    役割の違う複数の有用菌をバランス良く配合。土壌の微生物生態系そのものを豊かにし、総合的に強く健全な土壌環境をスピーディーに作ります。

基本の堆肥に、課題解決のための微生物資材を組み合わせる。これこそが、土のポテンシャルを最大限に引き出す、現代の土づくりの切り札です。

土の中に住む菌類に関するQ&A

Q1:作物の元気がないのは、すべて土の悪い菌が原因ですか?

A1:いいえ、必ずしもそうとは限りません。作物の不調の原因は、病害菌以外にも、日照不足、水の過不足、肥料の偏りといった栽培環境や、害虫による被害など多岐にわたります。土の状態を確認しつつも、葉の色や虫の有無など、植物全体をよく観察して総合的に原因を判断することが大切です。

Q2:微生物資材と普通の肥料は何が違うのですか?

A2:肥料が植物の「ごはん」であるのに対し、微生物資材は土を豊かにする「働き手(菌)」を投入するものです。肥料が直接的な栄養補給であるのに対し、微生物資材は土壌環境そのものを健全にして、植物が育ちやすい状態を作る手助けをするもの、という違いがあります。

Q3:微生物資材にはたくさんの種類があるようですが、何を基準に選べばよいのでしょうか?

A3:まずは「目的」をはっきりさせることが大切です。
「特定の病気を抑えたい」「根張りを良くしたい」など、解決したい課題が明確な場合は、その機能に特化した菌を主成分とする「スペシャリスト」タイプの資材を選びましょう。
一方、「土壌環境全体を底上げしたい」「病気が出にくい元気な土にしたい」といった総合的な土壌改良を目指す場合は、多様な役割の菌が配合された「チーム」タイプの複合微生物資材がおすすめです。

まとめ:悪い菌を持ち込ませず、良い菌を増やす土の菌活に取り組もう!

土の中に広がる、菌たちの壮大な世界。いかがでしたでしょうか。

悪い菌は確かに存在し、時には私たちの努力を無にしてしまうこともあります。しかし、土の中ではそれ以上に多くの良い菌が、健やかな作物を育むために、日夜懸命に働いてくれています。

私たちの役割は、悪い菌を根絶やしにすることではなく、多様な良い菌たちが主役となる豊かな土壌環境を、積極的に作り上げていくことです。

その基本となるのが、有機物豊かな堆肥を使った土づくり。それに加え、解決したい課題や理想の土壌に合わせて専門家が選び抜いた菌を届ける「微生物資材」は、その歩みを加速させる現代の知恵であり、最も力強い味方となります。

堆肥で土壌の基礎体力を養い、微生物資材でそのポテンシャルを最大限に引き出す。そんな新しい「土の菌活」で、化学物質に頼らない、ワンランク上の豊かな菜園・農業を始めてみませんか。

その一歩が、きっと、これまで以上の収穫の喜びと、生命力あふれる野菜や花との出会いにつながっていくはずです。